株式会社内部監査

新型コロナウイルスと企業倒産


1.企業倒産件数は低水準

 我が国では、新型コロナウイルスの蔓延により、企業倒産が増大しているとの報道が見られていますが、実際のところはどうなのでしょうか。内部監査協会の「監査研究」2021年4月号に、東京国際大学の白田教授が寄稿しておられますが、我が国における企業倒産の実態は、このような報道とは大きく異なるようです。白田教授によれば、2020年の全国企業倒産件数は2年ぶりに前年を下回り、前年比6.5%減の7,809件にとどまっているとのことです。これは2000年以降、2番目の低水準で、負債総額も前年比16.4%減となっています。


2.宿泊、飲食は増加

 倒産件数は全業種で前年を下回っており、業種別にみると、建設業(10.5%減)、サービス業でも5.2%減になっています。ただし、サービス業でも、宿泊業は127件で大幅に増加、飲食店も780件と過去最多になるなど、報道でよくみられる宿泊、飲食は件数自体は増加していますが、各業態の中に占める件数は報道で言われるほどには多くなっていません。


3.コロナ禍で生き延びている要因は「損益」構造

 では、なぜコロナ禍による売り上げの減少にも関わらず、企業倒産がそれほど増加していないのでしょうか。東証1部上場企業の2020年4月~12月の売上高が前年同期比11%減にもかかわらず、営業利益(26%減)、純利益(16%減)をともに確保できているのです。これは、過去に日本企業が内部留保に努めてきた結果であると白田教授は指摘されます。その結果、日本企業の留保利益率が前年よりも上昇し、総資本留保利益率の上昇にもつながっています。

 かつては、「内部留保は悪」のように言われたこともありましたが、結果として、コロナ禍による売り上げ減少に対して、強固な財務体質を維持できたのは「厚い内部の賜物」といえるのです。


4.マスコミのセンセーショナルな報道こそ国民を惑わす

 このような内部留保の実態を踏まえ、店を閉じる飲食業でも、「留保利益があるうちに店をたたもう」としている状況が身近に見られます。まだ健全な精神は残されているよう感じます。センセーショナルな報道に惑わされてはいけないと思います。



5.今こそ健全な「内部統制」機能を

 厚い内部留保があるといっても、いつまでも内部留保が続く保証はありません。為政者はこのような企業や国民の努力に甘えることなく、ワクチンの速やかな接種に努め、一刻も早く経済を立て直すために一丸となるべきでしょう。本来、国の統治機構は内部統制の典型であり、立法・行政・司法の三権はそれぞれが発揮すべき役割があります。

 特に、立法府は国民のための政策を立案する役割を担うもので、いわば「ガバナンス機能」の主宰者ですから、特に野党は政府に対して健全な批判者、アドバイザーとしての機能を期待されています。企業でいえば「管理部門」にあたるものですから、現場に対するモニタリング機能を発揮し、マスコミのセンセーショナルな報道の片棒を担ぐことなく、冷静なデータから、政府の政策を正していくよう求めたいと思います。



                                               以上