株式会社内部監査

 

小規模組織における内部監査態勢整備の手順

 

 少額短期保険業者、保険代理店などの小規模な組織では、専任の内部監査部門の設置や個別内部監査の実施に困難が伴うことが多いと思われます。しかし、このような組織こそ、内部監査をはじめとする「内部管理態勢」をしっかりと作っていく必要があることも事実です。ここでは、このような小規模な組織がどのようにして内部監査態勢を整備し、運用していくことができるか、弊社のこれまでの知見を踏まえて考えていきたいと思います。

 

1.何から始めるのか

 内部監査態勢整備といっても、何から始めたらよいのか、皆目わからないのではないでしょうか。言葉で知っていても、実際に内部監査に携わった経験があればともかく、営業や経理などの仕事が長い方には、会計監査とどこが違うの、業務品質の「カイゼン」運動と同じでは、といった疑問もあると思います。そこで、ここでは、内部監査態勢とは何か、どのような手順で社内の検討を進めていくのがよいか、について考えましょう。

(1)内部監査とは何か

 内部監査については専門的な定義(例えば、内部監査人協会などが公表していますので、興味のある方はネットなどでご覧下さい。)などがありますが、ここでは「組織の中で、自分たちで、経営目標達成を阻害する要因を見つけ出し、自分たちで解決していくための仕組み」と理解いただくとよいと思います。

a.組織の中で、自分たちで

 内部監査は「内部」とされているように、各組織(企業、団体など)が、自ら行う監査です。監査というと会計監査のように社外の会計監査人が来て、会議室にこもって経理書類や領収証などとにらめっこしたり、呼び出しを受けて説明したりする会計監査を想起する方が多いと思いますが、内部監査は、組織の中で、自分たちの仲間が行う「確認作業」です。

確認方法

 この確認作業の中では、「規程やマニュアル」などの会社のルールをもとに、業務が正しい手順で行われているか、業務の結果は正確か、をヒアリングと業務の結果生み出されたデータ、分析表などの現物と照合していきます。かなりの時間と労力を被監査部門とのヒアリングに費やすので「内部監査は被監査部門との共同作業」「被監査部門とのワンチームの確認作業」ともいうことができます。

 

(2)目標達成とは何か

 組織は営業目標、業務処理件数、不備率など様々な目標を掲げて活動しています。「規程やマニュアル」などの「ルール」は、その目標達成のために守るべき約束です。

ルールは何のためにあるのか

 1人の経営者がすべての業務を見ることができない以上、多くの人と役割して業務を行わなければなりません。しかし、多くの人たちが関わる場合には業務の標準化や効率化のために「ルール」を定めておくことが不可欠です。組織は、役割分担されたそれぞれの業務が計画通り、ルール通り行われれば、経営目標が達成されるという前提で運営されていますから、各業務がルール通り運用され、計画通りの結果が出ていれば、経営者が決めた目標とルールは正しいということが確認できます。

 目標には、企業・団体などの全体目標と全体目標を各個別組織に役割とともに配分した組織ごとの目標があり、内部監査はそれぞれの目標について確認するのですが、重要なことは、最後(毎年度など)に必ず「全社的な視点からその結果を評価すること」です。この全社的確認によって、「予定通り目標達成できたこと」を確認することが可能となります。

 

(3)阻害要因を見つけて解決していくとは

 どのような組織でも、全てうまく機能して目標が達成されているということは少ないと思います。なぜうまく機能していないのか、何が原因なのか、原因の中で何が最も重要なのか、を見つけていくことは業務を行っている自分たちだけではなかなかわからないことが多いと思います。しかし、組織の管理者、経営者がみると、計画通りの処理ができていなかったり、不備が発生していることがわかりますから、その原因を突き止めたいと考えるでしょう。

 「カイゼン」という言葉がありますが、各組織が日々の業務の中で作業工程や方法を改善していれば、生産性の向上の観点から不備の削減や撲滅につながることはよく知られています。一方で内部監査は、「各組織は主体的に問題点を発見し、改善しているだろう」ということを前提にして、その原因が「全社的なものなのか、改善活動として日常業務の中で日々積み重ねられていけばよいレベルのものなのか」、を評価することが役割です。

 つまり、内部監査は「経営に重大な影響を及ぼす要因で不備が発生していないか」、「原因が現場レベルではなく、全社的なものではないか」という視点から阻害要因を見つけていく仕組みですから、「カイゼン」運動とは同時並行で行われるものとお考えいただければよいと思います。

 

(4)内部監査の仕組み

 内部監査が全社的な視点から「経営に重大な影響を及ぼす要因」が何か、を探るためには、全社をくまなく確認できる要員と役割の付与があることが必要です。現場に入って、資料をもらったり、ヒアリングを行うためには、役割がなければなりません。そして、規程・ルールも最新のものをもとにして確認しなければなりません。

また、自己点検ではなかなか問題点を認識することは難しく、現場との利害関係がある人が内部監査を行うことも、情実を懸念される恐れがあります。従って、できるだけ内部監査を行う場合は、その人が直接関係しない組織や業務を内部監査すること、が必要です。

 

2.まず「役割分担」から始める

 

(1)内部監査業務を分解すると

これまで見てきたように、内部監査業務を分解すると次のようになります。

①自分たちの組織の中で、

②ルールが守られているかどうかや、目標が達成されているかどうかを

③「相互チェック」「相互牽制」で確認し、

④これを会社などの組織全体として評価する仕組み。

 

(2)役割分担とは

 組織の業務は複数の部門やその中でも複数の人で分担されています。どのように小さい組織でも、重要な業務については、複数の人によって相互チェックや相互点検(以下ではこれを「相互チェック」ということにします。)を行うことが多いと思いますが、内部監査のスタートは、特に重要だったり、間違いやすい業務について「相互チェック」を「いつ」「だれが」「どのように」行うか、を組織の中での役割分担として明確化することです。

例えば、契約申込書の点検業務であれば、一人が点検して不備を発見し、提出した人に戻して訂正を依頼することになりますが、この業務は訂正管理が重要なので、「戻した申込書のリストを作成する」という役割を業務フローに入れておき、この「リストの消込状況を定期的に別の人がチェックする」という役割を別の人の業務として明確化しておく、ということが考えられます。次に、組織内の上位者はこのリストの消込状況を少し長い間隔で点検することを役割に加えます。これだと、別の人、上位者の最低二人がチェックしますから、長期間の放置はなくなります。

 

(3)内部監査の役割分担

 このようにしてリストが作成され、別の人、上位者がチェックするという役割分担がうまく機能しているかどうか、を内部監査で確認するのです。この場合、組織内の別の部署の人が内部監査人として任命されて役割分担がうまく機能しているかどうか、をリストの消込状況を点検することにより把握できます。

 つまり、内部監査の専門部署でなくとも、「ルールの適切な実施状況」を確認することは十分に可能となります。この「相互チェック」は内部監査の一種として考えてもよいと思います。

 しかし、これは1人の人、1つの部署のことなので、「全社的な確認」という内部監査の役割を果たしていないのではないか、という疑問も当然でしょう。では、次に何をしたら、内部監査としての機能を発揮することができるのか、ということについて考えていきましょう。

 

3.管理者、経営陣の役割

 では、管理者や経営陣は内部監査の役割分担において、どのような役割を担うべきなのでしょうか。先ほど、内部監査業務を分解すると、①~④になると書きました。これまでは①~③までについて考えてきましたから、残っているのは④ということになります。

 「④これを会社などの組織全体として評価する」のは、管理者や経営陣の役割です。管理者や経営陣は、「相互チェック」の結果の報告を受けるというルールを決めることが大切です。報告の無いチェックはありえませんから、定期的(月次、半期、年次などと決めておく。)に報告を受けます。

 報告の結果、間違いや不備、苦情などが特定の部門や業務などに発生している場合は「なぜ」発生しているのか、について、利害関係のない人に調査を行わせるのです。このことが「組織全体としての評価」ということになります。大きな組織では、専任の内部監査部門がこれを確認し、「原因」分析を行って経営陣に報告しますが、小規模組織では、「経営陣自らがその機能を担う」ことで、内部監査態勢を構築することができます。つまり、現場と経営陣がチームを組んで、内部監査機能を発揮させる、という「実質的な内部監査」ということになります。

 

4.内部監査態勢の構築

 以上をまとめると、小規模組織での内部監査態勢は、

①現場の「相互チェック」体制を作る(役割分担を行う、チェックのルールを決める。)

②定期的に報告を行い、経営陣が評価を行う

③利害関係の別の人や組織に原因究明を行わせる。

という仕組みを作り、必要なルールを決めて実施することによって整備構築していくことが可能となります。

 

よく、専任の内部監査部署を作り、専任の内部監査人を配置し、内部監査規程は作ったけれど、内部監査機能が発揮できないまま推移している、という話をよくお聞きします。小規模組織では年中内部監査するほどの仕事量はありません。ですから、このような「経営陣が先頭に立った内部監査」の役割分担を行うことのほうが実質的な内部監査になるということも理解しておいていただければと思います。