株式会社内部監査

かんぽ生命の不祥事を考える

 日本郵政傘下のかんぽ生命保険で、保険の不適切販売が明らかになりました。言わずと知れた巨大生命保険会社であるかんぽ生命は、日本郵便を通じて全国の郵便局に生命保険商品の販売を委託しており、今回発覚した不適切販売については、その発生時期や不適切契約の全貌がわかっていませんが、現在報道されているところから見ても、その規模や不適切販売の内容が内部統制、内部監査の観点からも極めて大きな問題をはらんでいますので、以下に現状で把握できる情報の範囲で考えてみたいと思います。

 

1.報道からみた「重要な事実」

 内部統制とは、「あるべき姿」と「実態」のかい離を把握し、その原因を分析して対応策を検討・実施することです。従って、「事実」特に「重要な事実」の確認が内部統制のスタートになりますが、本件について現在報道されている中で内部統制の観点から重要と思われる事実は次の通りです。

(1)不適切契約が、現在判明しているだけで93,000件発生していること

(2)不適切の内容は、①顧客に新旧契約を重複して結ばせ、保険料を半年にわたり二重払いさせていた事案、②旧契約の解約から新契約までの4月~6月間、顧客が無保険の状態に置かれていた事案、の2つであること

 

 

2.報道を踏まえた「原因」

 日本郵政の説明やマスコミの報道に基づいて、不正のトライアングルの観点から今回の不適切契約が多数発生した原因を整理すると以下のようになります。

(1)動機 厳しい販売プレッシャーと営業ノルマの存在(マネジメントの問題)

(2)機会 郵便局員への高い信頼を悪用

(3)正当化 日本郵政の社内評価ルールの潜脱行為が社内的に横行していたこと(報酬体系の問題)

 一方、日本郵政は、「時代に合わない保険の売り方を放置してきたことが原因」だとしていますが、マスコミの側は、報酬体系やマネジメントの問題だと指摘しています。今後設置される第三者委員会でこのあたりが調査されるのではないかと思いますが、現在のところでは、不正発生の要素が全て網羅されていることから、起こるべくして起こった事案と評価されると思います。

 

3.内部監査の観点から見た原因分析

 報道されている事実と原因を踏まえて、内部監査の観点で問題点を指摘してみたいと思います。

(1)内部統制の適否

 報道によれば、日本郵政については、過去にも不祥事件として当局へ届け出た事案が、過去2015年度から2017年度にかけて毎年15件~20件発生しており、届出に至らなかった不適切事案も同時期に毎年124件~181件発生していたとされています。

 通常、内部監査部門は、このような不祥事件については「コンプライアンス態勢の整備状況」の観点から、個別郵便局の監査を行うとともに、その結果を踏まえてコンプライアンス管理部門の管理態勢について、全社的な横ぐしを指して、検証し報告します。同時に、顧客保護管理態勢の観点から、顧客苦情の発生状況や原因分析も行って経営報告することになっています。

 従って、当然ながら日本郵政ないしかんぽ生命の取締役会にもコンプライアンス態勢や顧客保護管理態勢についての内部監査結果報告が行われていたと思いますから、経営陣はその報告と原因も承知していたものと推測できます。

 にもかかわらず、このような不適切事案の公表と対応が遅れたことは、会社としてのガバナンス態勢の機能発揮ができていない(=経営の不作為)という指摘は免れないと思います。

 

(2)組織風土の適否

 経営陣のガバナンスが弱い組織は多くありますが、現場がモラルを維持してこれを補っている組織もまた多くあります。しかし、本件のような多くの不適切契約の発生と、その広がり、過去からのコンプライアンス事案の継続的発生を踏まえると、組織風土、企業モラルの欠如が顕著になっています。

 いうまでもなく、組織風土は管理者、経営者が作り上げるものですから、この点からも経営の不作為の罪は重いと思います。

 

(3)社内の声を伝える仕組みの適否

 今回の不適切事案の多発が、どのような「社内調査」によって発覚したのか、不明ですが、通常の大企業では内部通報制度により、社外の弁護士事務所などに通報する仕組みが設置され、一定程度機能しています。今回どのように機能していたのか、機能していなかったのか、今後の調査が待たれます。

 

(4)募集態勢の適否

 保険募集においては、保険が目に見えない商品であることから、法令等により重要事項説明が極めて重視されており、当然のことながら顧客の意向把握や意向確認結果の保管が行われていたと思います。内部監査では、顧客苦情の分析を行う際にはまずその記録に基づいて適切に意向把握・確認が行われていたのか、代印・代筆はなかったか、顧客への直接確認、などを行って「募集の適切性」についても監査します。

 これほど多くの不適切契約が発生しているとすると、それ以前に相当の苦情が発生していたと考えざるを得ませんが、どのような内部監査が行われたのでしょうか。そして、過去の損保の「不払い事案の多発」のケースでも、内部監査部門が「個別部署の苦情対応」にとどまり、「会社全体の発生状況分析」にまで及んでいなかったことが不祥事件の対応を遅らせ、内部監査機能の発揮ができなかった原因と整理できます。

 日本郵政ないしかんぽ生命の内部監査部門がどのような内部監査を行い、どのようにして経営報告をしたのか、今後の第三者委員会では是非この点の分析を行っていただきたいと期待します。

 

(5)金融機関の内部統制の現状

 金融庁は最近、金融機関の内部監査についてのモニタリング結果を公表しています。それによれば、内部監査には3段階あり、第1段階が事務不備監査、第2段階がリスクベース監査、第3段階が経営監査、レベルとし、メガ金融機関、外国社では経営監査までできているものの、中小金融機関は依然として第1段階と第2段階の中間にある、と分析していました。

 しかし、今回のかんぽ生命や先般来のスルガ銀行等の状況を見ると。かなりの金融機関の内部監査が事務不備監査レベルの機能発揮すら不十分であることを懸念させます。金融庁ではモニタリングによる報告ベースの調査を多用して、従来型の検査はあまり行っていないようですから、当局の実態把握についてもそれで十分かどうか、心配です。

 

以上、かんぽ生命不適切販売に関連して、当社の感想を含めてレポートさせていただきました。